​47 友愛の証を

​著・シチミ大使

「ねぇ、友次さん。アンヘルの戦力増強案って言っていたけれど、本当にこれ使うの?」

 エルニィの問いかけに友次は狭い軍用通路を抜けていた。

「ええ。米国からの圧力から脱し、なおかつ正式運用を目指すのにはやはり、日本での人機の改修案も必要でしょう。それに、アンヘルに回ってくる資材だけではどうしたってナナツーレベルが関の山ですからね。取れる手は打っておきましょう」

 循環パイプがうねり、自衛隊の所属扱いになっている格納庫の最奥にそれは磔にされていた。

 十字架に背を預け、項垂れたその機体の名前は《バーゴイル》。

 元々はキョムの技術で建造された量産無人人機だ。

「これさー、敵のザコ兵……ゾールと同じ技術なんだよね? だったら、やっぱり……」

 彷徨わせた懸念は敵に悪用されるのではないか、という疑問点。やはり敵の代物である以上、平和的再利用は難しいのではないか。

 その懐疑に友次はいくつかの文献資料を差し出す。

 エルニィはそれを読み漁り、ふぅんと付け加えた。

「……結構調べてるんだ?」

「それなりに、ですよ。南米戦線では新型も出ていると聞きます。《バーゴイル》なんて目じゃない機体が。もう、今さら敵の人機だからとかこだわっている場合でもないんですよ。ここは、使えるものは利用する。その腹積もりで」

「……確かに。血塊炉一つ取ったところで敵の所有数はほぼ無制限なのに、ボクらの人機は新しくても半世紀前の血塊炉を使っている。この時点で、後れを取っているんだよね。だから、取り返さなくっちゃってのはよく分かるよ。でも……やっぱ《バーゴイル》は……嫌だなぁ……」

 これは人機の技術者としての視点ではなく、操主としての身勝手な論点でしかないが、敵の機体――それもザコ機体を再利用と言うのはいやらしい気がしてならない。

「立花さんの気持ちも分からないでもないですが、恐らく回ってくるとしても南米戦線の払い下げ品……《アサルトハシャ》や老朽化した《ナナツーウェイ》程度でしょう。それなら、こちらでガワだけでも造っておいたほうが手早い」

 エルニィは光のない《バーゴイル》の相貌を覗き、嘆息をついていた。

「……何だかなぁ。この人機見ていると忌々しいったら。だって、南米じゃ敵の象徴みたいなもんだったからね。味方になるって言うビジョンがないよ」

「それも込みで、皆さんの認識を改めてもらう意味もあるのです。人機は平和のために。かつて……そう望んだ操主がいたはずですよね?」

「青葉のこと? まぁね。青葉からしてみれば、《バーゴイル》だって壊したくないんだろうなぁ。同じ人機、か。確かに血塊炉を動力としたって点では同じで、モリビトとかと何ら変わりない。問題なのは使う人間次第ってのはよく分かっているつもりだよ。それでも拭えないじゃん。日本に入ってから、何回この《バーゴイル》を相手取ったと思っているのさ」

「いえ、立花さんならそういう問題点も払拭していただけるのはないですか? 人機研究の権威でしょう?」

「……持ち上げても何も出ないよ? ま、改造ならお手の物だし、あとは血塊炉周りだけかなぁ」

「その点なら既に。南米より二世紀前の血塊炉を輸入いたしました。この人機に組み込む手筈はできています」

「相変わらず根回しの早いことで。でもどうするの? 人機の問題は解決できても操主の問題までは解決できないよ?」

「それならば、こちらにも伝手があります。何も心配なさらぬよう」

 友次の言葉に胡乱そうな眼差しを注ぐ。

「……友次さんの心配ないってのは逆に心配になっちゃうんだよねぇ。問題ないようにしてくれてるんだろうけれどさ……」

「今の決定事項は一つです。この《バーゴイル》の改修を、受けてくださるかどうか」

 エルニィは腕を組み、憮然と言い放っていた。

「そりゃ、ボクはアンヘルの研究者だし。普通に考えれば受けるよ。受けるけれど……時間は充分にあるの? これを取り返しに、キョムが仕掛けに来ない?」

「その点に関しても解消するように努めています。アンヘルの次の作戦はこの格納庫の防衛。それで赤緒さんたちの理解も得られるかと」

 なるほど。自分に《バーゴイル》を改造させておいて、そのリスクは極めて軽減するためにアンヘルの作戦展開。それもこれも、思惑は一つ。

《バーゴイル》を友軍機として展開したい、という構想だろう。

 その根幹には南米含む、大国の威信がかかっていると考えていい。

 鹵獲機を用いる技術力を敵側に見せつけ、こちらの戦略的優位を説く。

 どれもこれも織り込み済みの事象というわけだ。

 その歯車の一つになれと言うのだろう。エルニィはため息を漏らしていた。

「……いいよ、やる。で? 開発コードは? どういう名前にするのさ」

「名前は、立花さんのセンスで結構です。自由につけてください」

「ふぅん。ま、名前なんてただのコールサインだからね。何でもいいと上は思ってるんだろうけれど……」

 奈落の瞳を落とす《バーゴイル》を見据え、エルニィはまたしばらく寝られないな、と参ったように後頭部を掻いていた。

 

『だーるまさんが、こーろんだっ!』

《ナナツーマイルド》が振り返り、その声にぴたりとアンヘルの人機たちが硬直する。

 しかし一機――《ナナツーライト》が姿勢を崩し、転倒してしまう。それを目聡く《ナナツーマイルド》に乗ったルイは指摘していた。

『さつき、アウト。こっち来て』

『《ナナツーライト》じゃ、姿勢制御難しいですよ……』

『文句言わない。こっち』

 ルイが操る《ナナツーマイルド》に連れ添われる形で《ナナツーライト》がつく。これで鬼が二人に増えた形だ。

「……でも、こんな呑気でいいのかなぁ……」

 赤緒の浮かべた懸念に回線に割り込んだのは南であった。

『ゴメンね、赤緒さん。本当なら、もっとうまく立ち回ってもらうつもりだったんだけれど、ここじゃちょっとね……。私の権限も弱くて』

「いえっ、それは分かりますので……。だってここ……」

 周囲で人機を撮影する者たちの国際色の豊かさに赤緒は言葉を失ってしまう。

「なんてこたぁねぇさ。対キョムの前線国家って意味じゃ、他の国の軍人たちがこぞって来るよな。そういう外人部隊の基地ってのも、まぁあるんじゃねぇの?」

 下操主席に収まる両兵の声に赤緒はむむっ、と言い返す。

「……何だか見世物になっているみたいで、落ち着かないですよ」

「今さらだろうが。国内でも見世物に近い扱いだし、ま、その辺りは黄坂が工面してんだろうけれどな。オレは知らねぇけど」

 耳をほじくる両兵に赤緒はため息をついていた。

 その各国の軍人たちが笑い声混じりに人機を指差して記念写真を撮っている。何だかそれ自体が浮いた出来事のようであった。

「……観光地みたい」

「物珍しいっちゃそうなんだろうな。人機産業って言ってもまだ動き出してそうそう時間の経った代物でもねぇだろ。だからロストライフ現象なんて名前がついちまうのさ。人間が勝手に消えちまうみたいな言い草なのはそういうこった」

 赤緒は今回の防衛対象たる格納コンテナを視野に入れていた。

 そこでエルニィは既に三日三晩、一睡もせずに作業に打ち込んでいるのだと言う。今回の作戦はそんなエルニィと、そして話にだけ挙がっていた新型機の防衛、だと聞いていた。

「でも新型なんて造る余裕あったんですね……。何回も南さんが余裕ないって言っていたの聞いていましたし、立花さんだって資材が足りないってぼやいて……」

「ああ、鹵獲機を使う実験みたいなもんって聞いていたな。要は使えるものは使うって考え方なんだろ。人機に関しちゃ、あながち的外れってわけでもねぇのさ。南米じゃ腐るほどあったからな。軍の払い下げやら、格納庫で埃を被っている火器やら何やら何でも使っての戦い。まぁ、慣れたもんだろ」

「……小河原さん、でもここは日本ですよ?」

「だから何だよ。鹵獲機って言ってもピンとは来ねぇか?」

「そうじゃなくって……。鹵獲ってことは、敵の人機を再利用するって意味じゃ……」

『だーるまさんがー……』

 ハッと赤緒が《モリビト2号》を前進させ、直後にはポーズを取って固定させる。

『ころんだっ!』

 振り返った《ナナツーマイルド》に対して、《モリビト2号》が硬直する。むぅ、と《ナナツーマイルド》から文句が飛んだ。

『……喋っていても減点にするからね』

「……しまらないなぁ……。こんなので、本当にいいんでしょうか?」

 その問いに両兵はぶっきらぼうに応じていた。

「なに、問題が起こりゃ黄坂たちに任せりゃいいんだよ。オレらはちょっと遊んでるくらいに見られてちょうどいいだろ」

『だーるまさんが!』

 ハッと赤緒は《モリビト2号》を挙動させかけて、突然に振り返った《ナナツーマイルド》に困惑のまま足踏みをしていた。

『赤緒もアウト』

「あーあ、もったいねぇ。オレが乗ってるんだから動かすだけだろうが」

「そ、それが難しいんですよぉ……。いざ止まるってなると、人機ってこうも難しいんですね……」

「まぁな。静止も含めて人機操縦技術って言っちまえばそこまでだが、何も動くだけが戦いじゃねぇ。こういう時、どしっと構えられるのが強い場合もあるのさ」

「どしっと構える……。小河原さん、立花さんの居るって言う、あのコンテナの中身って……」

『赤緒、今度は鬼ね。さっさとして』

《ナナツーマイルド》にタッチされて、《モリビト2号》でおどおどと歩んでいく。

 足元で他の国の兵士たちが指差して笑っているのが窺えた。

「うぅ……あれってやっぱり……」

「ああ、馬鹿にしてんな」

 しまらない、と思ったのはこれもだ。何で自分たちはこうして遊んで愚鈍を演じなければならないのだろう。

 両兵は腹立たしくないのだろうか。赤緒はそれとなく尋ねる。

「小河原さん、文句ないんですね……。なんかちょっと意外……」

「ああ? ンなもん、いちいち腹立ててたらキリがねぇ。言わせておくくらいでちょうどいいんだよ。実際問題、あっちのアンヘルでも好き放題言われていたらしいからな。税金の食い潰しだの、役立たずだのってのはもう言われ慣れちまったクチさ。ただまぁ、役立たずなりの意地ってもんはあるとは思うぜ」

「役立たずなりの……意地……」

「どれだけのらりくらりとしていようがよ、いざって時にバシッて決めりゃ文句なんて自然と出ねぇもんだ。そういうのがアンヘルの理想じゃねぇのか?」

「いざって時に……」

 己の中で咀嚼する前にルイから矢の催促が飛ぶ。

『早くしなさい。もっとも、赤緒の鈍さじゃ、負ける気はしないけれどね』

 挑発に赤緒はむっと頬をむくれさせる。

「すぐに鬼にしちゃいますからねっ! だーるまさんがー――!」

「……いや、そんな場合でもなくなったな」

 ふえっ? と素っ頓狂な声を上げた赤緒は《モリビト2号》が不意打ち気味に後退したせいで上操主席に盛大に背筋をぶつけてしまう。

「お、小河原さん……っ?」

「おいでなすったな。……キョムの野郎共」

 忌々しげに放った声音の先には、空中展開する《バーゴイル》の群れがあった。六機編隊の《バーゴイル》の射撃した光条が先ほどまで《モリビト2号》のいた空間を引き裂いたのである。

 両兵が反応しなければその時点で撃墜されていただろう。

 冷や汗が滲む前に両兵の声が響く。

「さつき! それに黄坂のガキ! 敵は一端の戦力で攻めて来てやがる。防衛任務は事前の話し合いがどうだとか黄坂は言っていたが構うな! 全力で迎撃しろ!」

 了解の声を相乗させた二人の人機が放たれたプレッシャーガンの照準を抜け、《ナナツーライト》がリバウンドによる足場を形成する。

『ルイさんっ!』

『さつき、跳ぶから持たせてよね』

 体操選手さながらに、《ナナツーライト》の構築したリバウンドの足場を踏み台にして《ナナツーマイルド》が躍り上がった。

 その二振りの刃を舞い上がらせ、剣戟が《バーゴイル》と交差したのも一瞬。

 メッサーシュレイヴの切れ味は《バーゴイル》の銃剣の耐久値を軽く凌駕し、そのまま一機を寸断する。

 踊るように次なる敵機へと跳躍した《ナナツーマイルド》に相手はしかし、頓着しない。

 足場を形成した《ナナツーライト》へと一斉射撃を見舞う。

『それでもっ! Rフィールド、プレッシャー!』

 丹田に力を込めた声音が響き渡り、《ナナツーライト》が両手を振り翳す。リバウンドの斥力磁場が瞬き、《バーゴイル》の一斉掃射を弾き返したが、それでさえも相手からしてみれば重要ではない。

 ――やはり、本懐はコンテナの中身。

 そうだと悟った赤緒は《モリビト2号》の姿勢を沈めていた。

「小河原さんっ!」

「ああ! ファントム!」

 黄金の機軸を刻み《モリビト2号》の巨躯が一瞬にしてコンテナの前へと立ち現れる。

 その挙動に兵隊たちが虚を突かれたように見入っていた。

 赤緒は《モリビト2号》のライフルを構えさせ、《バーゴイル》の頭部を狙い澄ます。

「当たって!」

 一射された銃撃にしかし、削れたのは一機のみだ。まだ残存戦力が三機。

 黒煙を上げる《バーゴイル》へと次いで照準した赤緒は一機の《バーゴイル》が肩口を開き、磁場を奔らせたのを目にしていた。

 直後、《モリビト2号》の照準システムに遅れが生じる。

 敵影を捉え切れず、赤緒は困惑した。

「これは……何を!」

「強化ECMか……。小賢しい真似をしてくれるじゃねぇかよ……。柊! オレがバックアップする! 格闘戦に入れ! 敵の狙いは間違いねぇ! 立花のいるコンテナだ!」

「はいっ! 通しません!」

《モリビト2号》がブレードを振るい上げ、《バーゴイル》へと接近する。銃剣形態の兵装と火花を上げたのも一瞬、モリビトの膂力は敵機を両断していた。

《バーゴイル》にはパワー負けはしない――だが現状それが有効打とも言えないのがこの戦局だ。

「いいか? 一発でも通しゃオレたちの負けだ。……ったく、こんな分の悪い勝負もねぇ」

「それでもっ! 分が悪くっても諦めなければ! 私たちはぁっ!」

《モリビト2号》が制動をかけつつ、飛翔機動の《バーゴイル》へと飛びかかる。その剣先が相手へと届く前に、《バーゴイル》の放った光条がコンテナへと突き刺さっていた。

「駄目――ッ!」

 直後、爆発に包まれたコンテナに両兵がコンソールを殴りつける。

「クソッ! 間に合わなかったって言うのかよ……」

 絶望的な声音に差し込んだのはエルニィの通信であった。

『――いや、時間を稼いでくれて助かったよ、両兵。それにみんなも! ボクらは無事だ!』

 灼熱に染まるコンテナをこじ開けたのは《ブロッケントウジャ》だ。

 エルニィが生きている――それだけで安堵の息をつきかけた赤緒は、《ブロッケントウジャ》の背後から飛翔した影に瞠目する。

「あれは……」

「白銀の……《バーゴイル》か?」

 銀の翼を広げ、《バーゴイル》にしか見えない機体が躍り上がり、キョムの《バーゴイル》と打ち合う。

 その手には背びれを思わせる「返し」がついた大剣が握られていた。

 その返しがキョムの《バーゴイル》の持つ武装を折れ曲がらせ、力任せに引き千切る。

 圧倒的な力の顕現に、赤緒も両兵も言葉をなくしていた。

「……駆動系が見直されて……《バーゴイル》らしくないパワーになってやがんのか……」

『ボクを嘗めないでよねっ。きっちりと《バーゴイル》の弱点であるパワーの面は克服済みさっ! それに、遠距離だって!』

 白銀の《バーゴイル》の肩口が開き、内蔵されたガトリング火器が火を噴いていた。

 強化ECMを張った《バーゴイル》を瞬く間に蜂の巣にし、敵機体から黒煙が上がる。

 残り一機にまで追い込まれた《バーゴイル》部隊が玉砕覚悟で斬りかかっていた。それを銀翼の《バーゴイル》は背びれの刃がついた剣で打ちのめす。

『――嘗めないでもらいたいものだな。私が試験操主に選ばれたんだ。それなりの技量を持っている』

「この声……ヴァネットさん!」

 メルJが駆る白銀の《バーゴイル》が敵機を斬り払い、そのまま高機動を活かして浴びせ蹴りを打ち込んでいた。

 嬲られるようにキョムの《バーゴイル》が高度を落とす。

 その頭蓋へと大剣の切っ先が上段より振るい落とされた。

『これが私の――《バーゴイルミラージュE》だ!』

 メルJの声を引き受け、新機体――《バーゴイルミラージュE》が産声の象徴のように吼え立てて大剣で敵の頭部を打ち砕いていた。

 キョムの《バーゴイル》部隊を全滅させた機体へと、《ナナツーライト》と《ナナツーマイルド》、それに《モリビト2号》が合流する。

『いやぁ、もしもって考えて人機の中で作業していてよかったよ。備えあれば、だねっ!』

「……ったく、冷や冷やさせやがるぜ。その銀色の《バーゴイル》が試作機ってわけか」

『うんっ! 元々おぼつかない《バーゴイル》の試験操主にはメルJくらいの操縦技術がいるってのは分かっていたし。それにメルJ自身も、過去には《バーゴイル》に乗っていたみたいだから、勝手は分かったみたいだよ?』

『まぁ、機体性能の頼りないものではあったがな。この機体だってシュナイガーの足元にも及ばない』

 基本評価が高いのは相変わらずだ。しかし何故だか、赤緒にはその白銀の《バーゴイル》がただの鹵獲機には思えなかった。

 どこかで邂逅したような……。

「……もしかしてその《バーゴイル》と私、会ったことあります?」

『おっ、気づいたね、赤緒。そう、何を隠そう、この《バーゴイル》。最初に赤緒が超能力もどきで撃墜した、記念すべき一体目なのさ!』

「最初のって……最初にモリビトに乗った時の……?」

 柊神社で襲いかかってきた《バーゴイル》のうちの一機だと言うのか。あの時「ビートブレイク」で倒したはずの機体がまさかこのような形で舞い戻ってくるとは思いも寄らない。

『あの時とは……色々状況が真逆になったな。私はシュナイガーに乗っていたし、それにこの《バーゴイル》は誉れある……お前の撃墜一機目だ。それが味方になるなど……奇縁だな』

 まさしくその通りであろう。

 数奇な運命には違いない。

 それでも、眼差しの温かな機体だと言う印象になったのはメルJが乗っている以上に、自分が信念を曲げずして戦った最初の機体であるのも大きいのだろう。

「……私の倒した《バーゴイル》なんて……」

『……ちょうどいい。外国の兵士たちがカメラを向けている。このようなパフォーマンスも、時には必要だろう?』

 白銀の《バーゴイル》――《バーゴイルミラージュE》が手を差し伸べる。

 人がそうするように、《モリビト2号》と《バーゴイルミラージュE》は固い握手を交わしていた。

 それを外国の兵士たちが興奮気味にシャッターを切る。

「……これも奇妙だよな。元々キョムの人機だった《バーゴイル》が、こうして縁を辿れば、味方にもなるってのは。……あいつの言っていた通りに、人機が飛行機だとか車みてぇに、人類に愛されるようになるのも、案外近いのかもしれねぇな。そう思わせられるぜ」

 その言葉振りを問い返す前に、赤緒はこうして誰かのためになることが、人機にとっても人にとっても幸福なのかもしれない。

 そう、自ずと思えていた。

 

「おっ、この見出しの写真綺麗ねぇ。いい感じに一面!」

 居間で南が新聞を広げているのをエルニィが一緒になって眺めている。

「いい写真じゃん。それにこのキャッチコピーも。“人機は友愛の証か”、ねぇ。……いつか来るのかな。両兵……ううん。青葉が言っていたみたいに。人機が飛行機とか、車と同じように誰かのために愛される時が……」

 それを夢物語だと人機開発の権威であるエルニィは知っているはずである。それでも、南は茶化すこともましてや否定なんてするつもりもなかった。

「きっと、ね。長い時間がかかるかもしれないけれど、それでも……この写真の意味は消えないもの」

 新聞の一面には《モリビト2号》と《バーゴイルミラージュE》の固い握手が、絆の証の如く鮮明に刻まれていた。

その各国の軍人たちが笑い声混じりに人機を指差して記念写真を撮っている。何だかそれ自体が浮いた出来事のようであった。

​著・シチミ大使

© 2018,2019 綱島志朗 公式サイト 合同会社TAK