​46 戦慄海域を超えて

​著・シチミ大使

 流れる潮風に赤緒はふと被っていた帽子を傾けていた。

 大きな鍔つき帽が風に揺れ、それを保持する。

「……これが、東京湾……」

 視界一面に広がる水平線に赤緒は呼吸も忘れて見入っていた。

 思えば海に来るのは片手で数えるほどだけで、後はほとんど都心での生活が馴染んでいる。まだ海開き前の潮風は涼しげで、自衛隊によって封鎖線を張られた浜辺には人っ子一人いなかった。

 ――否、自分たちアンヘルメンバーを除けば、であるが。

「ルイー。ボールそっち行ったよ!」

 黄色い水着に身を包んだエルニィの声音が弾け、後衛に位置していたルイが素早く飛び退ってトスされたビーチボールを浮かび上がらせる。

 それを好機、と見たエルニィが膝元に備え付けたアルファーを起動させていた。淡い明かりと共にエルニィの肢体が躍り上がり、アルファーの加護を受けた跳躍力でそのまま相手のコートへとアタックを決める。

 その一手に対してスクール水着姿のさつきが浜辺を滑ってトスに繋げようとするが、あまりにも強力なアタックに明後日の方向へと跳ね上がってしまう。

「ああっ! すいません、ヴァネットさん……! これじゃ、負け……」

 その言葉尻が収束する前にメルJの放った銃撃がビーチボールを撃ち抜いていた。

 目を丸くするさつきにメルJはフッと微笑む。

「これならば一点になるまい」

「なぁーにが、一点になるまい、だー! メルJ、さっきから何個ビーチボールを潰せば気が済むの!」

「自分のコートに落ちなければ一点ではないルールのはずだろう。そのルールの盲点を突いた、得策のはずだが?」

「そういうの! 屁理屈って言うんだよ! もうっ、せっかくのプライベートビーチが台無しじゃん!」

 奇声を上げるエルニィに赤緒は笑いかける。しかしそれは彼女らと同じ目線ではない。

「……私も参加したいなぁ……」

 ぼやいた赤緒は風通しをよくした《モリビト2号》のコックピットで周辺警戒に当たっていた。

 自分は人機の上で東京湾を望んでいる。こんな形で今年の海を目にするとは思わなかった、と赤緒は待機状態の《モリビト2号》の中で嘆息をつく。

 いや、自分だけではない。

 離れてはいるが、《ブロッケントウジャ》に《ナナツーライト》、《ナナツーマイルド》の各機は周辺に展開している。

 ただ、《モリビト2号》だけはその体躯に不釣り合いなほど、巨大な砲門を構えているということ以外は――。

「えっと……南さんの情報だと、世界で一番強い大砲なんだっけ……。パワーの面でモリビトじゃないと負荷に耐えられないって聞いたけれど……」

 それでも若干の持て余しは否めない。

 言い渡された作戦は大きく二つ。その二つを、赤緒は思い返していた。

「……敵は、海より来る……」

 

「南米の連中から、矢の催促よ。みんな、いい?」

 柊神社の居間に集まったアンヘルメンバーに目配せしてから、南は了承を取っていた。

 エルニィは、と言うと先ほどから巨大な筐体に何かを打ち込んでおり、その作業に余念がない。

「いいよー、続けて」

「……両は? あいつが来ないと話にならないんだけれど」

「小河原さんは、多分、上かと……」

 おずおずと応じた赤緒に南はキッと睨んでから、息を深く吸い込んでいた。

「早く降りてらっしゃい! このスカタン!」

「うぉっ! ンだよ、黄坂! うっせぇな! もうちょいでジジィに勝てそうなんだ。千円賭けてんだから黙ってろよ」

「賭け将棋なんてしてないで、あんたもこっちにいらっしゃいよ! アンヘルのメンバーでしょうが!」

 ひょっこりと頭を出した両兵が全員を見渡し、嘆息混じりに降りてくる。

「……作戦の時間になったら嫌でも行くっての。今回の敵は、特殊なんだろ?」

「あの……特殊って……?」

 尋ねたさつきに南は後頭部を掻く。

「ま、ある意味では上の尻拭いみたいなところがあってねー。ただこういうこともあるって知ってもらわないことには話になんなくて……。えっと、変な話だけれど、みんな、UMAとか信じてる?」

 思わぬ問いかけに全員がきょとんとする。その中で憮然と問い返したのはメルJであった。

「そんなもの、居ないに決まっている」

「そ、あんたの言う通り、いない。でも、それに類する存在……たとえば海中で検知された、よく分かんない反応だとかがあるとして、それがもし、あり得ないのにあるとすれば……」

 赴く帰結にルイが目聡く反応していた。

「……新型の人機」

 詰めた声音に緊張が走る。エルニィは視線を振り向けずに応じていた。

「そっ。新種の人機に似た何かが確認されたとあっちゃ、心中穏やかじゃないよね。それでボクはこうして解析作業。それと作戦開始時刻までの準備をしているってわけ」

「海の中……人機って海に浸かっても平気なんですか?」

 赤緒の素朴な疑問に、普通は無理、と南は頭を振る。

「だって一応は精密機械だからね。潮風とかも本当はよくないレベルなんだけれど、でもキョムの技術は私たちの想定の十年は先を行っていると思っていいわ。海中専用人機、あっても不思議じゃない」

「……ンで、その確認情報が南米の連中から入って来たって寸法だろ? いっぺん聞かされりゃ分かるっての。賭け将棋に戻っていいか?」

 ぎろり、と睨んだ南に両兵はその意見を仕舞って口笛を吹かしていた。

「……キョムの新型なんですか?」

「現状、不明なのよ。だからそれも含めての調査任務。アンノウン機が確認されたって言う情報が日本の領海内で出たわ。この国の内部で起きることは基本的に私たちが矢面に立つしかない。分かるわよね?」

 問い質した南に赤緒は唾を飲み下す。

「それって……私たちに戦えってことですか? その海中人機と……」

 さつきの質問に南は渋い顔をする。

「それもねー、向こうさんとの協定ってものがあって。領海侵犯の人機をどう扱うかってのがこう……高度な政治的駆け引きと言うか……そもそも都心での戦闘も実はあんまし推奨されていないのよね。そんな中で、海辺の戦いってのがどう扱われるのかに連中はちょっと神経を尖らせているみたい」

「……モリビトでは出れないって言う意味ですか?」

「平たく言うと、アンヘルの戦力の総動員による殲滅戦って規模が決まっていて、未確認の新型機に対して、新型機をぶつけた場合の採算ってのが……」

 煮え切らない南の言葉繰りに両兵がふんと鼻を鳴らす。

「何てこたぁねぇ。要は、よく分かんねぇ相手に、こっちの戦力を出し尽くすのも惜しいし、何ならメンテナンス代も含めて多大にかかる作戦ってのはやりたくねぇんだろ? ……ったく、面倒だな」

 南は大きくため息をついてその意見に頷く。

「ま、大筋は両の言う通り。領海侵犯の敵は押さえておきたいけれど、モリビト含め新型機は出したくない。じゃあどうするのかって話だけれど……」

「試算できたよ。このフォーメーションなら、問題ないはずっ」

 エンターキーを打って終わらせたエルニィが振り返り、ズバッと言いやっていた。

「難しい話じゃない。ボクらはちょっと早めの海開きに、行けばいいってことだよ」

「……海開き?」

 疑問符を浮かべた赤緒に南は思い切った様子で口火を切る。

「……うん。あんまし遠まわしに言ってもしょうがないか。――総員、海開きよ」

 その言葉と作戦内容が伴わず、全員が小首を傾げていた。

 

「……それがこんな形なんて……」

 作戦内容はアンノウンの敵に向けての浜辺での人機展開。

 南が言うのには日本政府と相手側の国家間のバランスがどうだとか言っていたが、畢竟、この浜辺より先にアンヘルの人機は出てはいけない、ということらしい。

 公式記録に残る作戦でアンヘルの人機が東京湾より先に出るのは許可されておらず、その認可が下りるのを待っていれば相手を取り逃がす恐れがあった。

『だからこその、長距離滑空砲だよ。赤緒』

《ブロッケントウジャ》に乗り込んだエルニィの声音を赤緒はアルファー越しに聞いていた。

しかも、全員が乗り込むことも問題なようで、自衛隊の監視の下、人機に乗り込めるのはその都度一機に一人だけ。

 赤緒はモリビトより降りてビーチバレーに興じるアンヘルメンバーに合流していた。

「……慌てて水着買ったから、ちょっと小さかったかも……」

 本格シーズン前なのでまだファッション店もまともに開いておらず、水着も前シーズンで売れ残った一部しかない。

 それでも、南はRスーツによる待機よりも水着姿での待機命令を下していた。

 面子ではメルJのみいつものコート姿ではあったが、さつきとルイはスクール水着に身を包んでいる。

 赤緒は、と言うと、ワンサイズ小さい水着を持て余していた。

「……動きにくそうな格好」

 ルイの言葉がずぶりと刺さる。エルニィと替わって赤緒はルイのコートに入っていた。

「えっと……前衛をやればいいんですか?」

「赤緒じゃすぐに突破されちゃう。後ろに入って。私がブロックするから」

「うぅ……少しくらいは信じてくださいよぉ……」

 涙声になった赤緒は無視して、ルイはメルJのサーブに機敏な反応をする。

 しかし、と赤緒はトスされたボールを仰いで声にしていた。

「……こんなことでいいのかなぁ……」

 

「気取られてない?」

 下操主席から尋ねた南に両兵はへいへい、と応じていた。

「遊んでンだから大丈夫だろ」

「ちょっと、両? これでも真面目なミッションなんだからね!」

「真面目なミッションが聞いて呆れるぜ。要は現状のアンヘルメンバーを出したくないっていう、上の都合だろ? そのしわ寄せがこれかよ」

 上操主席で両兵が駆動系を確かめさせる。乗り合わせた機体は、迷彩色に塗られた《ナナツーウェイ》であったが、今回の任務特性上、一世代前の機体をわざとあてがわれている。

「骨董品だな。相当、操主が乗ってなかったんだろ。こいつ、関節ガタついてるぜ。とんだじぃさん人機じゃねぇか」

「それでも、やるっきゃないのよ。沖合に出られる許可が出ているのは旧世代人機だけだからね」

「うぉっ……! こいつ、パネルシステムも一からやり直しなのかよ。こういう時、ありがたいよな。天才の頭脳は」

 上は旧世代人機での作戦を想定していたのだろうが、こちらには天才頭脳たるエルニィがいる。

 彼女が最新型の人機のOSを洗い出し、旧世代機の制御端末に上書きできるように調整してくれていた。

 その部品を繋いでようやく《ナナツーウェイ》が産声を上げる。

 沿岸地域の、赤緒たちからは離れた位置より《ナナツーウェイ》が搭乗したのは人機専用の水上ジェットスキーであった。

 靴裏をマウントさせ、接合を確かめてから南は息をつく。

「……艦載機とか、そういうのも許さないって構えなの、本当に損よね」

「まぁ、米軍との共同作戦になると色々面倒だからだろ。自衛隊はこの作戦遂行にはアンヘルを見張るって意味合いもあるし、オレらがこんな頼りない装備で出るってのも、織り込み済みってわけか」

 それほどの積載重量を想定していないジェットスキーで滑走するのに、携えた武装は軽量アサルトライフル一丁とブレードのみ。

 南は《ナナツーウェイ》のバランサーを確かめてから、上操主の両兵に促していた。

「私は重量調整に忙しいから。あんた、落っこちないでよね」

「誰に言ってんだ」

《ナナツーウェイ》の腕がジェットスキーのハンドルを掴む。事実上、使えるのは片腕のみ。

「《ナナツーウェイ》、出るわよ!」

 ボートシステムと合致した加速器が発動し、《ナナツーウェイ》の機体が波間を引き裂いて海上を疾走する。

 瞬く間に東京湾沿岸を離れていく機体に両兵はアサルトライフルを構えさせていた。

「どこから来る?」

「待って。……未確認機の遊泳ルートを捕捉……相手は――直下よ!」

 迸った南の声に両兵は慌ててボートの機首を立てる。制動をかけさせたその時には、海中より飛翔した人機の姿が大写しになっていた。

 ひれ状の部位を持つ、脚のない人機だ。それそのものが推進器に近い形状をしている。

「……あれが、海中専用人機……」

 呆けている間にも未確認機は白波を立て、海中へと潜っていく。

「逃がすわけにはいかないわ! 両、火器の使用を――」

 発しかけた声を遮ったのは両兵の習い性が感じ取った敵機の奇襲であった。

 海面で弾けた弾丸の勢いに両兵は舌打ちする。

「待ち伏せか!」

 こちらへと真っ直ぐに向かってくるのは、立方体の形状を模した人機であった。

「識別信号……《K・マ》……? ルイが撃墜したはずの機体じゃない!」

「八将陣……!」

 忌々しげに発した二人に《K・マ》より声が放たれていた。

『邪魔はさせませんよ! さしものシャンデリアとは言え、地球上の海の試験は不可能ですのでね。我が方の海中人機、《グルーク》。静観するのならばここでの撃墜はない、と言っておきましょう』

「あン時の野郎か……」

 さつきの目を眩惑した八将陣の男であろう。

 友次の継続調査によれば、確かハマドと言う名であったか。

「残念だけれど、ここで未確認の相手は墜とせって言われてきてるのよ! そのためにお膳立てしたんだから……っ」

『おやおやー? いつものアンヘルの血続操主ではない様子。ならば容易いですよねぇっ!』

《K・マ》の足元にはリバウンドの盾が装備されていた。発したリバウンドの斥力で相手はさながらサーフボードのように海上を突っ切っていく。

「おい! 黄坂! このままじゃ速度で押し負ける! ジェットスキーの加速を上げろ! 狙い撃ちにされるぞ!」

「分かってるわ、よっ! 上操主、しっかり任せたからね!」

《ナナツーウェイ》の躯体が急な加速度に軋みを上げる。この老朽人機はちょっとした負荷でも限界だ。そこから察するにこの作戦、恐らくは米国では織り込み済み。

 静観するのが、彼らのスタンスなのは見え透いている。

 だが……両兵は歯噛みしていた。

「気に食わねぇ……。キョムと戦えってンなら、こういうのも迎撃しろって判断だろ。なのに都合の悪いことには臭いものに蓋かよ。そういう、大人の事情っての……気に入らねぇって言ってんだ!」

 アサルトライフルを掃射して逆立った波間で防御幕を作り出す。即席の防御に《K・マ》がうろたえつつも肩口より装備した連装ガトリングを発射していた。

『無理ですよ! この《K・マ=マリナー》は海上戦闘を視野に入れた機体ィッ! 時代遅れの《ナナツーウェイ》で逃げ切れるわけがないでしょうに!』

 その証明のように波で張った防御幕を容易く相手の銃撃網は引き裂いていく。

「……かもな。だがよ、――誰が逃げる、なんて言った?」

 白波の盾を貫通してジェットスキーを逆立たせた《ナナツーウェイ》が振りかぶる。

 大上段に掲げられたブレードが晴天に煌めき、《K・マ》を狙い澄ました。

『少しは器用なようですが……水上戦闘でッ! この私を超えられるわけが!』

《K・マ=マリナー》がリバウンドの盾を突き上げ、波間を自在に移動しようとする。だが、それを許すまでもない。

 ジェットスキーの加速を最大にまで絞った《ナナツーウェイ》が回り込んで並走した。

『馬鹿な! そんなことをすれば、そのボードがバラバラになって……!』

「――ごちゃごちゃ、うっせぇな。舌噛むぜ? バラバラになったって、信じられる下操主がいるんならよ、いちいちビビッてられっか!」

 振るい落とした一閃が《K・マ=マリナー》の保持する火器を寸断し、そして翻した刃がコックピット付近を掠めていた。

 寸前で仰け反った形の《K・マ=マリナー》より、哄笑が発せられる。

『か、勝ったッ! こんな加速度で、あなた方の足場は崩れる! 私の人機はがたつきもしない! 勝機はこちらに――』

「だから、舌ぁ噛むって言ってんだろうが」

《ナナツーウェイ》が足場を蹴り上げ、《K・マ=マリナー》へと飛びかかっていた。

 その挙動に相手は臆する。

『ひっ――! まさか、下操主までが!』

「……両の言う通りね。その特段に回る舌がなければ、私たちを敵に回すことは、なかったでしょうねッ!」

《ナナツーウェイ》の脚部が浴びせ蹴りを見舞い、《K・マ=マリナー》をリバウンドのボードより落下させる。

 打ち下ろした一撃が《K・マ=マリナー》の推進剤を破壊していた。

「よかったな。そいつ、水中用なんだろ? だったら、溺れ死ぬってことはねぇ」

 もがく相手を他所にリバウンドボードを用い、《ナナツーウェイ》は海域を逃れていく。

 魔の戦闘海峡を超えて、南は嘆息をついていた。

 両兵はヘッと笑いかける。

「うまくいったろ?」

 その得意げな面持ちに、南は拳をぶつけていた。

「痛って――! 何すんだ!」

「何すんだじゃないわよ! 死ぬところだったじゃないの! ……ったく、心中みたいな真似を何で好き好んで八将陣なんかと……」

 鼻っ柱を押さえ、両兵は返す。

「……てめぇだって乗り気だったから、あのボートから飛んだんだろ?」

「勘違いしないで。あんたのやり方に合わせるんならこれしかないって言う、熟練の操主の判断よ」

「……ま、歳だけは上だからな」

 再び飛んできかけた拳を制して、両兵は尋ねる。

「……いいのかよ。未確認機の撃墜は」

「相手の会話は記録しているもの。これを突きつければ米国だってだんまりでしょ」

 キョムの実験機となれば、それを関知していないはずもない。互いに突かれれば痛い腹を持っているのは同じのはずだ。

「抜け目ねぇなぁ……。長生きするぜ、お前」

「そりゃどうも。だって私、アンヘルのリーダーだもの。長生きしないと……あの子たちに報いられない」

 南の眼差しが浜辺で戯れている赤緒たちに向けられていることを両兵はこの時、実感していた。

「……アンヘルのリーダー、ね。そいつは特段に」

「ええ、重いラベルよ。でも、同時に誇れるわ。どんな勲章よりもね」

 

 帰還してきた南は、もう作戦は終わったわ、と開口一番言うなり、浜辺でのバーベキューを計画していた。

 どうやら既に自衛隊にも話を通していたらしい。

 誰もいない浜辺で自分たちだけのバーベキューは、まさしくプライベートビーチのようであった。

「いいんでしょうか? ……こんな贅沢して」

「いーの、いーの。食える時に食っておかないと、損するわよ?」

 いつも柊神社の護衛をしてくれている自衛隊員たちがクーラーボックスいっぱいの具材を持って来る。それを見るなり南の目が輝いた。

「やったっ! 自衛隊特選の食材!」

「アンヘルの皆さんにはお世話になっていますから。今日はいい肉を持ってきましたよ」

「よぉーし、焼くわよ! みんな!」

 おーっ、と声を張り上げたエルニィにどこか気後れ気味に赤緒は続く。

 両兵は、と言うと浜辺に胡坐を掻いてじぃっと水平線を睨んでいた。

 その隣へと、それとなく歩み寄る。

「……海は、お嫌いなんですか?」

「ん……別にそうでもねぇんだが……。いや、切り替えもあそこまで早いと、一種の持ち芸だな」

「南さんの……? ああっ!」

 風に煽られ、鍔つき帽が飛ばされかけたのを、立ち上がった両兵が掴み上げる。

「……ほらよ」

「ありがとう……ございます。その……」

 まごついた赤緒に両兵がぽんと帽子を被せて、わしゃわしゃと頭を撫でていた。

「わっ……! 何ですかぁ……っ」

「まぁ、なんだ。難しいこと、今は考えンのはよそうぜ。メシは食える時に食っとかないとな」

「もうっ……結局、小河原さんはそういうのばっかり……。……私の水着姿、何とも思わないんですか……」

「ん? 肉焦げちまうぞ?」

 振り返った両兵の言葉に赤緒はむくれてぷいとそっぽを向く。

「し……知りませんよっ! これだから、小河原さんは」

「そーよ、そーよ。これだから両は」

 同調した南に両兵はむっとして言い返す。

「わぁーったよ! 今は食う時だ! そうだろ!」

 夕映えの浜辺で、涼やかな風と共に、今はここにある平穏を――。

思えば海に来るのは片手で数えるほどだけで、後はほとんど都心での生活が馴染んでいる。まだ海開き前の潮風は涼しげで、人っ子一人いなかった。

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