​40 蘇る翼

​著・シチミ大使

「どうです? これが我が国家が威信にかけて開発した、人機の第一号機です」

 その言葉と共に照明が照り返され、水色の兵器をその場に集った者たちに見せつけた。

 表向きは、各国政府への品評会だ。この時、拍手喝采が起きたのを、中国の兵器開発部門の要人は手で制していた。

「立派なものでしょう? 我が国家のロストライフ現象の報告件数が少ないのも頷けたので? トーキョーアンヘルの専門家さんは」

 全員の視線が一斉に向けられ、南はスラング混じりの英語で切り返す。

「確かに、これは立派な、人型兵器だわ。お金と技術に余裕があるのならば量産も可能でしょう」

 仰ぎ見た南はしかし、と胸中で結ぶ。

 ――こんなことになるなんてね。

 政府高官、それに人機産業を担いたい後進国家のお役人たち。誰も彼もが、自分の一挙手一投足を仔細に観察している。

 中には見るからに侮蔑の眼差しの者もいた。

 日本の血筋の女子供ができうる領域ではないと言う判断なのだろう。

 言いたいことも分かる。伝えたいことも痛いほどに。

 だが、南は酷評を下していた。

「でも、これじゃ人型兵器としては及第点にも達しません。キョムとの前線に持ち込むのは不可能です」

 視界に入れた人機一号機を名乗る機体は、四本も足がついている。それにコックピットも随分と低い位置に設定されていた。

 全体像で言うのならば《ナナツーウェイ》の簡略版。もっと乱暴な言い方をするのならば――。

「……これでは、ただの羽虫だな」

 こぼした自分の護衛に中国の役人たちが糾弾の視線を飛ばす。

「……分かった風なことを」

「実戦に出ていれば分かる。敵は待ってくれない。高機動の《バーゴイル》……いいや、それ以下の人機でも対処不能だ。撃墜までの時間は数秒にも満たないだろう」

 厳しい採点に各国の黒服たちが声を潜ませていた。

「何なのだね、あの女は……」

「少佐殿。あれがメルJ・ヴァネットです」

 耳打ちした護衛に役人は目に見えて驚愕し、ごまをする。

「これはこれは。まさか銀翼の操主がこんな場所まで来てくださっているとは思いも寄りませんでした」

「能書きはいい。こんなのでは無理だ」

 断ずる声音に南は慌ててメルJを制する。

「馬鹿っ。あんたここは中枢なのよ。そりゃ、言いたいことは分かるけれど……」

 日本語で言いやると、中国の役人は目に見えて不快感を示す。

「極東国家の言葉でさえずらないでもらおうか。これはわたしと、高名なる操主の話し合いですよ」

 その言い分には南もむっとして苦言を呈する。

「……ですが、我々トーキョーアンヘルの意見が欲しいと、呼んだのはそちらのはずです」

「それは、この場にいる誰よりも地獄を見ているはずですからね。次のロストライフ現象の標的国となれば」

 皮肉を含んだ声音に南はあくまでも冷静に返していた。

「だからこそ、貴国には慎重な判断を――」

「ですが、出せる駒には限りがあるでしょう? 我々が南米の惨状を、知らないとでもお思いですか? カラカスに核が落ちて二年、いや三年でしたかね。人機産業は最早、各国の競争部門にまで降りている。一時期の南米での独占状態は解かれたと言ってもいい」

「ですから……キョムに対抗するのにこれでは無理なのです」

 こちらの譲らない論調に、相手は鼻で笑う。

「《バーゴイル》ですか? 旧式機なら、確かに遅れは取るでしょうね。ですが、我が国の《火神兵一号機》にケチをつけられるのは困るんですよ」

《火神兵一号機》と呼ばれた人型兵器はじっと虚空を睨んでいる。

 しかし実戦を渡り歩いてきた自分には分かる。

 これでは勝てるものも勝てない。

「……進言しておりますように、我が方からの《ナナツーウェイ》の流通は致します。そちらで納得はいただけないのでしょうか」

 こちらの最大譲歩である。しかし、大国の役人は度し難いとでも言うように首を横に振った。

「それは米国に尻尾を振るのと変わらないでしょう。《ナナツーウェイ》を含む、現行人機の製造は彼の国が噛んでいる。高値で損耗品を売りつけられるのがオチなのは見えているではないですか」

「……ですが、この人型兵器では押し負けます」

「……先ほどから何ですか。絶対に、人機、とは呼びたくないのですね」

 それは一目瞭然だ。血塊炉を積んでいない機体では、《バーゴイル》は愚か、型落ちの《ナナツーウェイ》でも撃墜できない。

「……これは警告ですよ」

 純粋に、これからの身の振り方を含めての言葉であったが、相手は呵々大笑と笑い飛ばす。

「これはこれは。警告と来ましたか。いや、失敬。極東国家はよほど、そういう姿勢がお似合いと見える。我が国の諜報機関が掴んでいないとも思っていらっしゃるのか。巨大建造物、シャンデリア。衛星軌道上に位置する敵の牙城に踏み込む術も持っていない、自称先進国に言われることはないのですよ。わたしたちは敵が見えているのならばもっとうまく立ち回る」

 どちらにとっても突かれて痛い横腹はあると言うわけか。互いに罵り合っても仕方あるまいと、南はあくまで公式な発言を務めた。

「……キョムには勝てません」

「やってみなければ分からないでしょう。それとも、やる前に諦めるのが、貴国の流儀ですか。ならば譲っていただきたいものですな。この人機に」

 

「なぁーにが! “この人機に”、よ! あんなもん、人機って呼ぶもんですか!」

 適当な店に入った南がラーメンに香辛料を振りかけてすする。それを隣でメルJはどんぶりを凝視していた。

「あっ、あんたそう言えば箸使えないんだったわね。親父さーん、フォークプリーズ!」

 フォークが差し出されるがそういう問題ではない。

「黄坂南。私はアンヘルに入ったとは言え、お前の護衛に振り分けられる身分ではないはずだ」

「そう? 私ゃぴったりだと思ったんだけれどね。あんたほどの知名度で、人機操主っていないでしょ? 各国飛び回っていたからそれなりに有名なんじゃないの? 銀翼の」

 確かに《シュナイガートウジャ》で幾度となくキョムの野望は砕いてきた。敵の先回りもこなしてきたクチではあるのだが、護衛任務となれば話は別だ。

「……どうして小河原にやらせない」

「両に? 無理無理! あいつにやらせていたらさっきの高官の首をこれよ!」

 首を掻っ切る真似をして南は笑い話にするが笑いごとではない。

「……立花でもよかっただろう。あいつは各国に顔が利く身分だ」

「エルニィじゃ、あんなもん見せたら怒って顔も出さないわよ。ま、ある程度何が出されるのか分かっていたから、あんたを護衛につけたのもあるんだけれどね」

 南は相当腹に据えかねているらしい。メルJとしてみれば、先ほどの自称人機の機体への評価は既に下っている。

「異様に低いコックピットは少しでも負荷を減らすためだろうな。それに加えて二脚式に付き物であるバランサーの配置を怠っている。だからこその安定の四脚なのだろうが、馬鹿馬鹿しい。あれでは人機の強みを削っている。機動力がないのならば銃座のほうがマシだ。足をつけた分、余計に取り回しが悪い。それに携行火器の位置から憶測するに、あれでは高所に位置取る《バーゴイル》を追跡しての火線を見舞うのも不可能と見える。咄嗟の機転も利かない機体ならば、戦車に戻ったほうがいい」

「……やっぱりね」

 得心した様子の南がどんぶりを飲み干す。怪訝顔で問い返していた。

「……何がやっぱりなんだ?」

「いや、あんた見てないようでやっぱりよく見てるわ。アンヘルの面子に関しても、見てないようで、なんでしょ?」

「何のことだか」

 ぷいと視線を背けたメルJに南は声を振っていた。

「単細胞ねぇ、両と同じ」

 その言葉にメルJは思わず慌てて問い返していた。

「……小河原が言ったのか?」

「まさか。あれで一応は口の堅い奴だし。でも、馬鹿にしないでよね。私だってアンヘルのリーダーなんだから。あんたらのことは見ていないようで見てるのよ。これでも」

 そう結んだ南はラーメンの替え玉を頼んでいた。メルJは驚嘆の眼差しで南を見やる。

「……もっと適当な奴だと思っていたが」

「そう? ま、それならそれでいいけれどねー。私は変に気を回したりするの苦手だからさ。ずさんだとか、気が抜けているとか思われているくらいでちょうどいいわ」

 替え玉が足され、南はどんぶりにがっつく。そういうところも含めて、少しだけずるいと感じてしまう自分がいた。

 一歩引いたところから、自分や両兵、それに赤緒たちも見ているのだろう。そのスタンスは素直に感心すべきなのだが、自分と両兵の間柄に踏み込まれるのは癪で仕方ない。

 不可思議なものだ。少し前までならば煩わしいと思っていた他人との距離感を、今ははかりかねている自分の迂闊さに苛立つ。こうして人は変われるのだな、と実感してしまう。

「弱さも含めて、か……」

「感傷浸ってると、らしくないわよ。それともラーメンは苦手?」

「まさか。貰い受けよう」

 フォークを手にしたその時であった。

 首筋に差し込んだような悪寒が走る。この殺気、と習い性の身体は拳銃を掴もうとして、南がその手首に触れる。

 彼女は静かに頭を振っていた。

 気づいているのか、というアイサインに南は声を潜める。

「……あまり殺気立つと、相手を刺激するわ。今はご飯を食べている愚鈍な日本人を演出しましょう」

「だが……この人数は……」

 足音を殺しているつもりなのだろうが丸分かりだ。自分相手にその程度の熟練度で、と察知した頭数に、メルJは舌打ちする。

「……三十人」

「数だけはこなすわねぇ、この国も。まぁ、それが武器なんでしょうけれど」

「黄坂南。ここで倒さなければ禍根を残す」

「だーかーら、待ちなさいって。親父さんに迷惑かけることはないわ。この店を出てから相手しましょう」

 軽薄なのか、それとも慎重なのか。メルJは刺すような殺気を意識しつつ、南の食事が終わるまでは銃に指先さえもかけなかった。

 勘定を終え、路地に出てから、さて、と南は声にする。

「出て来れば? お店に穴は開けないようにねー」

「能天気なことを言うな。相手は本気だぞ」

 その段になってようやく、メルJが銃を携える。南は、そんなもんよ、と笑った。

 路地の角から数名の黒服が歩み出てくる。

 全員、それなりの経験を積んだエリート兵であることは、その佇まいだけで看破できた。

「黄坂南。持っておけ」

「なに? おおっと! 銃投げないでよ、ったく、危ないわねぇ……」

 そう言いつつ、きっちり弾丸の有無を確認してから、彼女は安全装置を外していた。

 相手方が殺気立ち、武器を構えようとした時には既に遅い。的確に肩口へと照準してメルJは視界に入る黒服を蹴散らしていく。

 アサルトライフルを持ち出した相手に、南の頭を下げようとして、逆にメルJはコートを引っ張り込まれていた。

「あんた、当たるってば! ……ったく、数ばっかりわらわらと……!」

 それにしては拳銃の狙い澄ましも、ましてや相手を殺さないようにする扱いも慣れている。

 メルJはどこか気圧されている自分を発見していた。

「……慣れているんだな」

「そりゃあね! 各国回っていりゃ、危ないところも訪問するんだもの! 銃の一個や二個くらいは朝飯前よ! あっ、さっきのラーメンはお昼だったわ!」

 笑い声を響かせながら、狭い路地裏に入り、黒服たちをさばいていく。自分にも劣らないその技量にメルJは自然と背中を任せていた。

「どうしてそこまでできて人機には乗らない? 統率よりも向いていそうだが」

「誰かが憎まれ役買って出なきゃ駄目なのよ! あの子たちは、余計にね。だから、私はどんだけあの子たちに最終的に恨まれてもいいわ。どんな罵声も甘んじて受ける。それがリーダーってもんでしょう、がっ!」

 接近していた黒服の首根っこを掴み上げ、関節技を極める。動きも洗練されていて無駄がない。いつもの柊神社でだらけている人物と同じとは思えなかった。

「……なるほどな。お前もお前で、腹に一物抱えているわけか」

「あんただってそうでしょ! 根掘り葉掘り聞かれて、困る腹ってのは知ってる」

 銃撃で応戦しながら、南は穏やかな声で口にする。メルJは、ここまでの道筋を思い返していた。

 キョムを追い、グリム協会を呪って幾星霜。

 恩讐と復讐心のみで成り立っていた自分を、開放してくれたのはアンヘルの者たちだ。彼女らが自分の重く圧し掛かった運命を変えてくれた。ある意味では、違う生き方を示してくれた。

 そうでなければ今も自分は、黒く煮え滾った憎しみに身を浸し、どこまで続くか分からない血濡れの道を進んでいたに違いない。

「私は……」

 ぼうっとしていたせいだろう。銃弾がすぐ傍を跳ねてメルJは意識の糸を張り直す。返す勢いで放った銃弾が黒服の足に命中し、身悶えさせた。

 その一瞬を逃す南ではない。

「走るわよ! ひーっ……香港映画みたいね、これ」

 拳銃を片手に街並みを抜けていく。しかしその進路を阻んだのは、やはりと言うべきか相手方の新型兵器であった。

 朝方に品評会で目にしたものと同じ系統の機体が、鎌首をもたげてこちらを睨む。

 全体像で言えば人型と言うよりもサソリ。

「あちゃー……、新型出してきたかー。出し惜しみなしねぇ」

 どこか呑気な声音にメルJは前に歩み出る。

「退け。黄坂南。蹴散らす」

「いいの? 相手に付け込む隙を与えちゃうわよ? 外交面での成功はないかなぁ」

 そう言いつつも南が何を期待しているのかは分かる。ならば見せてやろう、とメルJはフッと笑みを浮かべていた。

「分かっていない連中に、見せつけるんだろう。本当の人機を」

「お好きにどうぞ。あっ、でもさ、一つ約束して。一生のお願いなんだけれどさ……」

 何だ、と問い返す前に、敵性兵器――《火神兵一号機》が火を噴いていた。隠密機動用として漆黒に塗られた機体の銃撃が立ち並ぶ家屋を吹き飛ばしていく。

 南と自分は銃撃網に煽られつつ、壁を背にしていた。

「あっぶないじゃないの! これだから、人機なんて呼びたくないのよ! 虫っけら! 野蛮人!」

「黄坂南、相手を刺激するな……。それにしたところで、自国民でも道連れか。大義の振り翳し方もこの国流だな」

 視界に入った血染めの市民の影に眉をひそめたのを、南は頭を振って制する。

「……仇だとか、恨み恨まれってのは、なしでいきましょう。ここはひとまず、あの暴走兵器の頭を押さえる。できるわよね?」

「できるか、だと。――愚問だ。来い! 《シュナイガーリペア》!」

 アルファーを振り翳し、メルJは潜伏させていた自身の愛機を呼び起こす。飛翔形態に移行し、降り立った銀翼の人機に、街の人々が色めき立つ。

「ありゃ、何だ! 巨人……」

 マニピュレーターが自分と南をコックピットに誘う。南は下操主席に収まり、へぇーと感嘆の声を漏らしていた。

「エルニィの話じゃ、半分くらいの修復率だって言っていたのに、結構しっかりしてるじゃない。操主席も人機も」

「護衛につくのだから当然だろう。無理を言わせて急がせた甲斐はあった。これが私の、《シュナイガートウジャリペア》だ!」

 バックパックの銀翼を拡張させ、四枚羽根となった武装を展開する。

 ヘッドアップディスプレイに浮かび上がった照準補正機をメルJは睨む。

 血続トレースシステムが最適な照準回路を導き出し、複数の標的を同時に狙い澄ました。

「咆哮しろ! アルベリッヒレイン!」

《シュナイガーリペア》の腹部、四枚の翼、それに両肩に装備された中距離射撃武装が火を噴き、《火神兵一号機》の四つ足を潰す。

「……見立て通りだな。四つ足は安定のためなのだろうが、潰されれば格好の的だ。食らうがいい。唸れ、銀翼の――!」

「ちょ、ちょっと待って! メルJ! さすがに加速度きつすぎ……!」

 皆まで聞かず、メルJは保持させたスプリガンハンズを基点に、《火神兵一号機》の動力炉を狙っていた。

「アンシーリー、コートッ!」

 黄昏の稲光を棚引かせ、白銀の一閃が敵動力炉を穿っていた。剣を払い、メルJは周辺を見渡させる。

 展開していた歩兵はほとんどが撤退したらしい。

 息をついた自分に、下操主席の南が食って掛かる。

「あ、あんたねぇ! 両ならともかく、私はブランクあんの! 加速のGで身体バラッバラになるかと思ったわよ!」

「知ったことか」

「……あー、はいはい。あんたはそういう人間だったわ」

 むすっとした南が、そういえば、と声にする。

「約束、してくれたわよね」

「約束はしてないな。一生のお願いだったか」

「聞いてるじゃない。えっとさ……」

 後頭部を掻いて南は照れ笑いする。

「黄坂南って、フルネームで呼ぶの、物々しいからやめない? 普通に南、でいいから」

 そんなことが、死んでもおかしくなかった極地から生き残った人間の言葉だとは、さすがにメルJも予測できなかった。

 茫然としていると、南は口笛を吹く。

「何なら、南さん、でもいいわよ。ほら、私って尊敬されるリーダーでしょ?」

 ぷっと吹き出してしまう。

 ――なるほど。確かに、一筋縄ではいかない、一本筋の入ったリーダーには違いない。

 しかしメルJは、知らんな、といなしていた。

「そんな注文など。……だが、呼んでやるとすれば確かに呼びやすいほうがいい。みなみ――」

「あーっ! もう正規軍来ちゃってるじゃない! メルJ、あんたさっさと退却! この国はオサラバ! とっととずらかるのよ!」

 言いかけた言葉を仕舞い、メルJは呆れ返っていた。

「……お前と言い、小河原と言い……日本人は何でこんなに図太くて身勝手なんだ……」

「両と一緒にしないでよ! さぁ、帰りましょ! あ、その前に……」

 南はなんとコックピットを開け放ち、マニピュレーターの権限を下操主で操って、腰が抜けた現地の市民に呼びかけていた。

 信じられない行動に目を瞠るメルJに、南はてへ、と舌を出す。

「お土産買わないとね。怒られちゃう。親父さーん。小龍包をあるだけ全部ー!」

 完全に参ってしまっている相手に土産など、とメルJは軽い頭痛を覚える。

「……本当に、日本人という奴は……」

 

「おいしいですよね、小龍包っ」

 赤緒が全員分のお茶を差し出す。南はテレビを観つつげらげら笑いながら応じていた。

「でしょー。何てったって現地のお土産だかんねー。質が違うのよ、質が。あっ、メルJー、あんたも食べるでしょ?」

 呼び止めた南に、メルJは言い放っていた。

「要らん。……もうお前の護衛はしないからな。……南」

「けち臭い事言わないでさー。……うん、今なんつった?」

 追及される前に、メルJは屋根瓦へと跳躍する。両兵とヤンが将棋を打っているのを、メルJは割って入って声にしていた。

「……疲れる連中だな。よくやるものだ、お前も」

「うん? 何があったんか知らんが、このジジィ待ったかけているのに譲りやがらねぇ。お前の閃きの一手をくれよ」

 両兵も身勝手だ。メルJは嘆息をついて、これだから、と空を仰ぐ。

「……退屈だけは、しないな」

政府高官、それに人機産業を担いたい後進国家のお役人たち。誰も彼もが、自分の一挙手一投足を仔細に観察している。

 中には見るからに侮蔑の眼差しの者もいた

NEXT41  to be continued

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