10月レイカルのハロウィン

​著・シチミ大使

 ふと、帰ってくるなり部屋の電気が点かないのを、作木は訝しむ。

「あれ? 電気代、払い忘れたかな……?」

 なら仕方がない、と歩を進めた、その時であった。

 足元がワイヤーを引っかけ、よろめいたところにクッションが顔面に飛んでくる。視界を閉ざされ、倒れ込む中で、柔らかなハウルの緩衝材が生じて、雲の上に降り立ったかのような安心感と共に突っ伏していた。

「な、何が……」

 直後、電気が点き、声が響き渡る。

「創主様! トリックオアトリートです!」

 思わぬ言葉が弾け、作木は呆然とする。そんな中でレイカルは吸血鬼の衣装を身に纏って跳ねていた。

「ヒヒイロから習いました! 今日はイタズラしてもいい日だそうですね!」

 くるくる回るレイカルはその意味を分かっていないようである。はは、と作木はレイカルの悪戯の芸の凝りに苦笑していた。

「……ワイヤートラップは悪戯の域を超えているような……」

「それは、私が考えたのですよぉ、作木様。ハウルのクッションに抱かれる感覚、気持ちよかったでしょぉ……?」

 降り立ったラクレスも仮装している。とは言っても、普段の彼女の立ち振る舞いからかけ離れたものではない。紫色の魔女の衣装だ。

「あ、みんな仮装してるんだ……。そっかぁ……世の中はハロウィンだもんね……」

 自分にはあまり関わりのない行事だな、と作木はテーブルへと歩み寄る。レイカルが衝撃を受けていた。

「そ、創主様! あの……! その……!」

 ばたばたと手をばたつかせるレイカルに作木はうん? と小首をひねる。

「……どうかした?」

「いえ……っ、その……っ!」

「レイカルってば、お菓子が欲しいなんてお子ちゃまねぇ……」

 妖艶に微笑んで見せたラクレスにようやく真意を悟った作木は、今しがた買ってきた生活用品を漁るが、やはりと言うべきか、余計な支出を抑えている癖が祟って、お菓子などあるはずもない。

「……えっと……サバ缶なら……」

「え! くれるんですか? やったぞ、ラクレス! 羨ましいだろ!」

 ふふんと胸を張るレイカルにラクレスはふふっ、と口角を吊り上げる。

「その程度で満足するなんて、レイカルってば本当に、お馬鹿さぁん……」

「なっ! じゃあお前は何をもらうんだ? このサバ缶は私のだぞ!」

 じり、と自分の身で隠したレイカルにラクレスは余裕の笑みで頭を振る。

「そんなものをもらうのがハロウィンではないのよ、レイカル。たとえば……殿方の口づけ、なんかをもらうのも、イタズラとしてはありよねぇ……」

 眼前に浮遊したラクレスが頬をさする。レイカルはぐぬぬ、と目に見えて悔しがった。

「何だ何だ! イタズラなら、私のほうが上だ!」

 途端、レイカルが作木の首裏から背中に入り、こちょこちょとくすぐり始める。

 作木は、レイカルのくすぐり攻撃に身体を揺すっていた。

「ちょっ……くすぐったいってば、レイカル!」

「どうですか! これが私のイタズラです!」

 袖から出てきたレイカルの満面の笑みに作木はどう反応すればいいのか分からなくなる。それをまるで児戯だとでも言うようにラクレスは嘆息をついていた。

「子供なのねぇ、レイカル。殿方が喜ばれる場所と言うのは、別にあるのよ。ああ、でも、あなたには少し難しかったかしらぁ……?」

 余裕しゃくしゃくのラクレスにレイカルは突っかかる。

「そ、創主様! そいつのイタズラに屈するのですか?」

「いや、その……。そもそもイタズラすればいい行事じゃないし……」

 その返答にレイカルは目を白黒させていた。

「では何をすればいいと? 私は創主様のためなら、どんなイタズラだってします!」

「いやだから……イタズラがメインじゃないんだってば……」

 むぅ、とレイカルは頬をむくれさせていた。

「わ、分かりません! 創主様はどんなイタズラならばご満足されるので?」

「レイカルにはやっぱり、ハロウィンは早かったみたいねぇ……。そんなことも分からないなんて……」

 小ばかにするラクレスにレイカルはうぅ、と呻って嘆く。

「何だって言うんだー! せっかくヒヒイロから聞いて、楽しみにしてたのにーっ!」

 わーんと泣き出してしまうレイカルに作木は慌てて取り成す。

「れ、レイカル? 僕は別に、レイカルのイタズラでも充分その……嬉しかったと言うか……」

「でも、サバ缶じゃあねぇ……。あなたのイタズラの程度が知れるわ」

 くすくすと笑うラクレスに涙目になったレイカルは直後、窓を突き破って飛び出していた。

「創主様とラクレスのアホー! こうなったら、びっくりするイタズラを考え付くまで、帰りませんからーっ!」

「れ、レイカル? ……あーあ、また窓壊しちゃった……」

 請求費が、と後頭部を掻く作木にラクレスはふぅと嘆息をつく。

 どこか、彼女は気疲れしているように窺えた。

「……何だか元気ないね」

「……日本のハロウィンと言うのは、仮装大会なのですね。ヒヒイロから聞かされて、どうにも承服しかねているのです」

 そういえば、ラクレスは純日本製のオリハルコンではなかったはずだ。

「日本でもこんな感じになったのはここ最近のはずだよ。外国のハロウィンって、どんなのだった?」

「どうもこうも……子供たちがお化けや怪物の仮装をして、家を一軒一軒回るのはお馴染みなのですが……日本ではこんな大馬鹿騒ぎに」

 テレビを点けたラクレスはハロウィンの仮装行列が居並ぶ都心部の映像にどこか憂鬱なため息を漏らす。

 本来の形ではないハロウィンに諦観でも浮かべているのだろうか。

「……何でもありだよね。アニメのコスプレから、本格的なのまで。せめて、レイカルにはお菓子をあげればよかったかなぁ……。サバ缶なんて、格好つかないよね」

 はは、と笑い話にしようとするが、ラクレスはじっとこちらを見据えて頭を振る。

「……別に、物は何でもいいのです。お菓子であろうとそうでなかろうと。ですが、そこにはもらうものと、あげるものの信頼関係があるはずなのです。それに……この行事は、どこか苦手で……」

 着こなしている魔女の衣装も、ラクレスからしてみれば皮肉でしかないのだろうか。

 ――ノイシュバーンの魔女。

 かつてそう呼ばれ、そして恐れられた本来の魔女である彼女からしてみれば、魔女衣装など、どこか囃し立てられているかのように思われているのかもしれない。

 自分はノイシュバーンの魔女と呼ばれていた頃のラクレスをほとんど知らない。契約してからの分しか、ラクレスの性格を知り得ないのだ。

 その点ではどこか不格好な創主とも言える。

「その……もうちょっと乗り気なほうがよかったかな」

「お似合いではありません。無理に乗り気になろうとする作木様なんて。ありのままのあなたでいいのです」

 そう言ってもらえるのは助かるが、さすがにサバ缶はなかった、と作木は深く反省する。

「レイカルには、代わりのお菓子を買ってきてあげて……あれ?」

「……あの子ったら、サバ缶を持って飛び出しましたね」

 ああ、と作木は額を押さえる。

「……可哀想なこと、しちゃったなぁ……」

「いいのではないですか。偽物のハロウィンにお似合いのお菓子でしょう。あれは」

 どこか言葉の節々に棘のあるラクレスはやはりこの文化に一家言ありそうであった。

「……そんなに嫌い? 日本のハロウィン」

「あえて言葉を選ばないのならば。これこそそうですね……虫唾が走る、とでも言うのでしょうか」

 そこまで言われれば立つ瀬もない。作木は曖昧に微笑む。

「じゃあ、無理しなくっていいのに」

「これは……ナナ子様に用意されたのです。似合うから、の一言で」

 ナナ子ならばその一言だけでごり押ししそうだ、というのはありありと窺える。

「よりにもよって魔女衣装なんて……。意味が分かっているのでしょうか」

「多分、日本のハロウィンはそこまで深く考えてのものじゃないと思うよ? だから、みんな気楽にイタズラして……お菓子をもらうんだろうし。それがこうして仮装行列になっちゃうのもね。そういうことなんだと思う」

「鈍感な民族ですね」

 鋭く切り込んだラクレスは相当腹に据えかねたものがあるのだろう。それでも郷に入らば郷に従えとでも言うのか、彼女が日本の文化に嫌悪を示すのは珍しい。

 それだけラクレスの神経を日本のハロウィンが逆撫でしているとも言えるが。

「でも……やっぱりお菓子を買いに行こう。だって、レイカルは悪意でイタズラしたんじゃないんだし。それは、ラクレスも、だろ?」

「さぁ、それは存じません」

 ぷいと視線を背けたラクレスも素直でないだけだ。作木は重い腰を上げ、出かけようとしていた。

 

 サバ缶を携えて訪れたレイカルがかくかくしかじかと語った事実に、ヒヒイロは頭痛を覚える。

「……お主、ハロウィンの礼節は教えたであろう」

「だから、イタズラしたんだってば!」

「それがサバ缶か……。作木殿も罪作りと言うか……」

「何でだ? サバ缶っておかしいのか?」

「いや、おかしくはないが……。どう言いましょうか、真次郎殿」

「そうだねぇ。俺はこの状況を一転させてくれるなら、イタズラでも何でも歓迎だな」

「言っておきますが、待つのは五分だけですぞ」

 むむっ、と削里は将棋盤を睨む。ヒヒイロは新聞記事に落としていた視線を上げてレイカルに向き直っていた。

「そもそも、じゃ。ハロウィンとは欧米の文化でのう。日本に入ったのは様々な要因を伴って……」

「それは聞いた! どっかの国で流行ったんだろ。それで、お菓子をもらうためにイタズラをするんだ!」

「……半分程度しか理解しておらんのう……」

 呆れ返ったヒヒイロにカリクムが言いやる。

「そいつの脳みそじゃ、半分理解できたらマシなほうだって」

 カリクムはナース服に身を包み、ナナ子の撮影に付き合っていた。

 傍らにはお揃いの服に袖を通した小夜がうぅん、と呻る。

「でも……作木君の家に行ってもお菓子はもらえないのね。じゃ、イタズラしようかな」

「はいはい、小夜はいつだって、口だけだからね。いざ行動ってなると、尻込みしちゃうのがいつもの小夜でしょ」

 カメラを構え、シャッターを押すナナ子も悪魔の衣装に仮装していた。

 小夜は心外だとでも言うように突っかかる。

「何よ、私だってハロウィンくらいはやってみせるわ」

 茶目っ気を込めてウインクした小夜にナナ子はしっかりシャッターを絞りつつ、嘆息をつく。

「その気があるんなら今頃突撃しているのが乙女でしょ。ここで時間を潰している辺りが、乙女じゃないって言ってるの」

 ナナ子の鋭い指摘に小夜はうろたえる。

「な――っ、そんなことないわよ! 今日の私は、白衣の天使なんだから!」

「そして私は悪魔。シャッターチャンスを逃さない、ね」

 カリクムがポーズを取りつつ、でもさー、とレイカルを見やる。

「こいつ、相当参っている感じだし、今回は助けてやろうよ」

「何よ、カリクムにしては珍しい。まさか、サバ缶大好きだっけ?」

「やらないぞ! これは私が創主様からもらったサバ缶なんだから!」

「誰もサバ缶なんて要らないわよ! そうじゃなくってさ! ……創主に真意を理解してもらえないってのはオリハルコンとしては辛いって話。それに、イタズラしていいんだろ? だったら、目いっぱいのイタズラを考えようよ」

「目いっぱいのイタズラって……何?」

 小首を傾げた小夜にナナ子はふっふっふっ、と不敵に笑う。

「二人とも、まだまだ衣装はあるからねー。何ならこれを着てイタズラしてもいいのよ。そのほうが撮れ高もあるし」

「なぁ、ナナ子。私、創主様に何ができるんだろう……」

 不意にレイカルがそのようなことを言い出すものだから、全員が仰天して固まる。

「……な、何? 雨とか槍でも降るって言うの?」

「お主らしくもない。そんなに今回は堪えたか?」

「いや、イタズラって、よく分かんないんだ。だって何のためにするのか、分からないし……」

 レイカルの真っ直ぐな心では、イタズラをする、という概念が理解不能なのかもしれない。そう考えたヒヒイロはカリクムと小夜へと目線を配る。

「二人とも、ちょっとこちらへ」

「な、何よ、ヒヒイロ。……言っておくけれど、観念的な話をされても困るからね」

「そうだぞ。……レイカル相手に、そもそもイタズラって何だ? みたいなことを説明しろってのが無理なんだからな」

「いえ、そうではなく。これは多分、お二人にしかできないことなので」

 ヒヒイロの提言に小夜とカリクムは困惑の眼差しを交わし合っていた。

 

「結構、買っちゃったかな……? 最近のお菓子って色々あるんだなぁ……」

 袋いっぱいのお菓子でレイカルも機嫌を直してくれるだろうか。

 そう考えていた矢先、街灯が明滅した。

 点滅する電柱の下で一人の女性がすすり泣いている。

 何かあったのだろうか、と作木は反射的に歩み寄っていた。

「何かあったんですか?」

 相手は、涙声で言いやる。

「フラれちゃったの……」

 よりにもよってハロウィンにか。困り果てた作木は、言葉を彷徨わせていた。

「えっと、その……それは不幸だったとしか……」

聞く耳を持たず、女性は泣き続ける。作木はどうすればいいのか分からず、思案のまま後頭部を掻いていた。

「と、とにかく。こんなところで泣いていたら危ないです。どこか、別の場所へ……」

「別の場所……こんな顔でも?」

 面を上げた女性には――目鼻がなかった。

 のっぺらぼうなのだ。

 後ずさった作木は袋を手に慌てて駆け出す。その背へと女性が追いすがっていた。

「待って……。連れて行って……」

「……う、嘘でしょう……。お化けなんて……」

 そこまで口にして、今日はハロウィンだ、ということを思い返す。仮装かもしれない、という可能性以上に、ハロウィンは元々、悪霊を追い払うための行事であったことが脳裏を過っていた。

 ――まさか、悪霊?

 どうにかして逃げ切らねば、と走り込むが、生来の体力のなさが災いし、すぐに追いつかれそうになってしまう。

「あ、脚速いな……お化けって……」

 その手がパーカーを掴みかけて、一条の白銀の光がのっぺらぼうの女を突き飛ばしていた。

「な、ナイトイーグル……」

 ナイトイーグルが追い払っている間に作木は部屋へと駆け上がり、そのまま後ろ手に鍵を閉めていた。

「……ハロウィンだからって浮かれてたら危ないなぁ……。ラクレス……」

 そう口にしかけて、部屋の内装が変わっていることに気づく。

 そこいらに灯されたのはカボチャをくりぬいた形のランタンだ。

 一瞬で雰囲気の塗り替わった自室にぬるい風が吹き抜ける。

 途端、ラップ音が連鎖した。

「か、怪奇現象……? ら、ラクレス……? それとも、レイカル……?」

 扉の向こうから爪を立てる音が漏れ聞こえる。すすり泣く声も。

「入れて……部屋の中に……」

 まさか秋も深まったこの季節に怪奇に見舞われるとは思いも寄らない。

 作木は助けを求めようとして、部屋の窓枠に引っ掴まった白い影を目にしていた。

「ま、まさか……」

 部屋に押し入ろうとする亡霊に目を瞑った瞬間、遥か上空より声が響き渡る。

「――ハウル急降下ドロップキッーク!」

 ハウルを纏いつかせたレイカルが亡霊を蹴飛ばしていた。

「創主様!」

「れ。レイカル……? この怪奇現象は……」

「お任せを! 創主様、何も言わずに扉を開けてください! 私が対処します!」

「た、頼むよ……!」

 扉を開けた瞬間、レイカルの放った一撃を前にのっぺらぼうは消え失せていた。

「……やった?」

「やりました! 創主様! 私、ハロウィンのお勤め、きっちり果たしましたよ!」

「あ、うん……。でも、何だったんだろ……。今までああいう現象には出会ったことはないんだけれどなぁ……」

「きっとハロウィンのお化けですよ! あっ、それ……!」

 袋に気づいたレイカルに、作木はははっ、と笑う。

「さっきはゴメンね、レイカル。ハッピーハロウィン」

 差し出したお菓子にレイカルは目を潤ませていた。そこまで感動されることだとは思いも寄らなかった作木は困惑してしまう。

「創主様! 大好きです!」

「うん。そうだね。僕も大好きだよ、レイカル。……サバ缶なんてあげてゴメン」

「いえ! あのサバ缶もおいしくいただきましたっ!」

 困惑しつつ、レイカルの喜ぶ姿に満足していると、砕けた窓より現れたのはハウルシフトしたカリクムであった。

「あ、カリクム……じゃなくって、メインは小夜さんか。どうかしました?」

「(……あんなに必死に逃げなくってもいいのに……)」

「はい?」

「(…何でもないっ! 分離よ、カリクム!)」

 小夜はカリクムと分離し、ナース服姿で佇む。

「……その、ハッピーハロウィン……」

「ハッピーハロウィン、作木君。そしてトリックオアトリート」

「あ、お菓子ならあるので……」

「もうっ! そこはイタズラでも……っていうところでしょ! ……ま、そういうところなんだけれどね」

 どうにも分からぬまま、作木はお菓子の包み紙を空けたレイカルを視野に入れていた。

「このチョコ、シールが入ってます! すごいですね!」

「あ、安かったから……」

「そんなのばっかりじゃ、せっかくのハロウィンも台無しでしょ? お菓子ならたくさん揃えてあるんだから。もちろん、イタズラでもいいのよ?」

 ウインクする小夜に作木は曖昧に微笑む。

 今はただ、レイカルの笑顔を見られるだけでも、このハロウィンという行事に感謝しようと思えていた。

 

 ――窓の外にて。

「……小夜ってば、自分がお化け役で逃げられたことはあんまし気にしてないんだな。私はレイカルのドロップキックを受ける羽目になったってのに……」

 直撃した個所をラクレスがさする。電撃的な痛みにカリクムは涙目になっていた。

「痛い! 痛いって! ……にしてもお前も気乗りするなんて意外だよ、ラクレス」

「あら? 私は作木様の本意を尊重しただけよ? あなたたちの見え透いた作戦がどこまで通用するのかも、面白そうだったけれどねぇ……」

「……ホント、いい性格してるよ、お前。でも、ヒヒイロの提案がこんなんだとは思わなかった」

 ――小夜殿は女優経験があるのですから、お化けの役を買って出てください。カリクムも、ですぞ。二人で作木殿をおどかした後、レイカルが乱入。お化けを退散させる。ある意味では真っ当な、ハロウィンでしょう。

「……レイカル、あの創主とうまくいったのかな……」

「あなたが気にすることではないでしょう」

「気にするよ……っ! だって私、小夜と一緒にお化けの役なんだから!」

「あら? 案外、乗り気だったんじゃないのぉ? だって今宵は、トリックオアトリート、でしょう?」

 そう、ハロウィンの夜はトリックオアトリート――お菓子をくれなきゃイタズラするぞ――それは好意的な相手にのみ通用する代物だ。

「……イタズラって、好きな相手以外だと嫌がらせになっちゃうもんな。その辺りの違いを、ヒヒイロは分からせたかったのかな……?」

 真実は分からない。だが、ハロウィンの月夜にラクレスは静かにこぼしていた。

「いいのではないのかしら。だって……好意的な相手がまだいるだけ、マシなのだから」

 その寂しげな声音にカリクムは顎をしゃくる。

「一緒になって馬鹿騒ぎして来いよ。……お前だって、あの創主のオリハルコンだろ」

「そう、ね。……私もとんだ、お馬鹿さんなのかも……しれないわね」

 浮遊したラクレスの背中を見送り、カリクムはこぼす。

「……いいんじゃないか? だって馬鹿ほど、こういう行事では楽しめるんだからさ」 

妖艶に微笑んで見せたラクレスにようやく真意を悟った作木は、今しがた買ってきた生活用品を漁るが、やはりと言うべきか、余計な支出を抑えている癖が祟って|

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